「巣ごもり」の商標登録

昨今の新型コロナウイルス感染症は、経済に大きな悪影響を及ぼしています。
しかし、このコロナ禍において、感染拡大防止のため、外出の自粛などが行われており、一方では「巣ごもり需要」ということで、各種の宅配サービス、ゲーム、屋内で使える健康器具などの需要が伸びているといわれています。

「巣ごもり需要」ということでは、アパレル業界では、ルームウェアや下着などの需要が増加しているようです。

そこで、本稿では、アパレルに関係する「巣ごもり」商標を1つご紹介します。

アパレルの分野で「巣ごもり」を商標登録できるか?

衣料品の商品分野で「巣ごもり」という言葉を含む商標があるのか調べてみました。
2021年3月4日時点で1件、出願中の商標が見つかりました。

それは、「巣ごもりパジャマ」という商標で、「寝巻き類」という商品分野で商標出願されています。
この「巣ごもりパジャマ」商標ですが、特許庁の審査は、一応終わっていて、商標登録を認めないという結果になっています。もっとも、この審査結果に対しては、特許庁の「審判」という手続で、さらに商標登録を認めてもらうよう特許庁に審理することを求めることができますが、今のところ、この件について、審判が請求されるかどうかは判明しません。
では、特許庁の審査で「巣ごもりパジャマ」が、なぜ商標登録を認めないと判断されたのか?
ざっくりと言いますと、「巣ごもりパジャマ」は、「休日に外出を控え、自宅で過ごす際に着用するパジャマ」という意味なので、商品の品質や用途を表しているだけで、つまり、一般的な名称だから商標登録は認められないという理由です。

この特許庁の審査は、個人的には妥当なものと考えます。
しかし、この商標の出願人にとっては、少しかわいそうとも思えます。

この「巣ごもりパジャマ」商標が特許庁に出願(申請)されたのは、2019年11月6日です。
この時期は、まだ新型コロナウイルス感染症が中国の武漢市で検出される前です。
コロナ禍の前から「巣ごもり」という言葉は存在していましたが、コロナ禍の前は、コロナ禍以降のように、自宅で過ごすことを「巣ごもり」とはあまり読んでいなかったと記憶しています。
そのため、「巣ごもりパジャマ」は、おそらく新型コロナウイルス感染症とは無関係に考えられた商標と思われますし、コロナ禍でなければ、一般的な名称だから商標登録を認めないという判断を特許庁はしなかったかもしれません。

しかし、特許庁は、商標の審査をする時点での社会的・経済的な実情などに基づいて商標の審査を行います。この件は、2020年8月に特許庁の一次的な審査結果が示され、2021年2月に審査結果がでています。つまり、コロナ禍の状況のもとで商標の審査が行われましたので、上述のような審査結果になっています。

「巣ごもり」が全てダメなわけではない

「巣ごもりパジャマ」商標をご紹介しましたが、誤解がないよう、少し補足を致します。

まず、上で述べた「巣ごもりパジャマ」ですが、これから審判が行われる可能性もあり得ます。そして、審判の結果、「巣ごもりパジャマ」は商標登録を認めるべきとの判断が出る可能性もありますので、「巣ごもりパジャマ」は、まだ一応、商標登録される可能性があることはご留意ください。

また、仮に「巣ごもりパジャマ」が一般的な名称だから商標登録を認めないという審査結果が確定したとしても、この1件の事例を根拠に、「巣ごもり」という言葉を含む商標登録が一切認められないようになるとは限らないことにもご注意ください。

もう少し「巣ごもりパジャマ」商標を詳しく見ると、この商標は「巣ごもり」という言葉と「パジャマ」という言葉に分けられます。「パジャマ」は、明らかに衣料品の普通名称です。そして、上の事例では「巣ごもり」も衣料品の品質や用途を表す一般的な名称と判断されました。そのため、「巣ごもりパジャマ」全体でも一般的な名称と判断され商標登録を認めないという結論となりました。
今後も、仮に特許庁が、「巣ごもり」という言葉を衣料品の品質・用途を表す一般的な名称であると考えるようになったとしても、「巣ごもり」に、「パジャマ」のような衣料品の普通名称や一般的な名称ではない言葉を組み合わせることで、商標全体としては一般的な名称であると判断されないようにすることが可能です。

まとめ

アパレルの商品分野で「巣ごもり」という言葉が、特許庁に一般的な名称と判断された事例が1件ある(2021年3月4日調査時点)。

しかし、この1件のみで、今後も特許庁が「巣ごもり」を一般的な名称と判断するとは断定できない。

仮に、特許庁が今後も「巣ごもり」を一般的な名称であると考えるようになったとしても、「巣ごもり」の前後に衣料品の普通名称や一般的な名称ではない言葉を組み合わせれば、商標全体として一般的な名称とは判断されない、つまり、商標登録できる可能性がある。

2021年03月04日