いわゆる「パロディ商品」と呼ばれる商品があります。
これは、一般的には、有名なブランドをモチーフにして、ユーモアの要素を取り入れたブランドを使った商品です。
本稿では、パロディ商品に使われるパロディ商標が商標登録できるのか、という点について述べたいと思います。
「フランク三浦」事件
パロディといえば、数年前に、スイスの高級腕時計ブランドの「フランク・ミュラー」のパロディ商品「フランク三浦」の事件が話題になりました。
この事件は、パロディ商標の「フランク三浦」について、商標登録が認められるべきがどうかが争われた事件です。
まずは、フランク三浦側が「フランク三浦」という商標を特許庁に商標登録出願をしました。
特許庁は、これを審査のうえ、商標登録を認めるという審査結果を出し、「フランク三浦」は商標登録されました。
ところが、フランク・ミュラー側が黙っていません。特許庁に「フランク三浦」の商標登録を無効にするよう、商標登録無効審判という手続を請求しました。
商標登録無効審判で、今度は、特許庁は、「フランク三浦」の商標登録を無効にするとの審決(審判の結果)を出しました。
すると、フランク三浦側も黙っていません。「フランク三浦」の商標登録を無効にするとの審決を取り消すよう、知財高等裁判所に提訴しました。知財高等裁判所は、「フランク三浦」の商標登録を無効にするとの審決を取り消しました。
フランク・ミュラー側も粘ります。知財高等裁判所の判決に対して、最高裁判所に上告しました。最高裁判所は、知財高等裁判所の判決を支持しました。つまり、最高裁判所も「フランク三浦」の商標登録を無効にするとの特許庁の審決は取り消すべきとの判断を示したことになります。もう少しわかりやすく言うと、正確性は欠きますが、知財高等裁判所も最高裁判所も「フランク三浦」は商標登録されるべきと考えたと言えます。
こうした判決を受けて、改めて、特許庁の無効審判で審理された結果、「フランク三浦」の商標登録は無効にされるべきでないとの審決を特許庁は出しました。
以上のように、パロディ商標である「フランク三浦」は、最高裁判所まで行った挙句、商標登録が認められています。
ただし、このような判決や審決は、ケースバイケースなので、パロディ商標ならば全て商標登録が認められるということにはならない点、ご注意ください。
ちなみに、私見では、特許庁は、パロディ商標があまり好きではないような印象を持っています。かなり以前は、特許庁は、パロディ商標について商標登録を認めない傾向が強かった印象があります。しかし、前述の「フランク三浦」もそうですが、近年、パロディ商標についても商標登録を認める方向に特許庁の審査の傾向が変わってきているように思われます。
「THE NYANKO FACE」
実は、「フランク三浦」事件について、随分と長くなりましたが、前置きです。
とある商標出願について注視していたのですが、この度、特許庁の商標登録を認めるという審査結果が出ました。
その商標は、以下のような商標です(商願2020-102845 出願人:㈱洒落紋)。
ご説明するまでもありませんが、こちらのパロディ商標です(商標登録第6012782号 商標権者:㈱ゴールドウイン)。
上の「ザニャンコフェイス」商標は、2021年3月26日に特許庁の登録査定(商標登録を認めるという審査結果)が出た段階で、本家のノースフェイス側がどのような対応をするのか、あるいは対応しないのか、まだわかりません。
私見では、「ザニャンコフェイス」も「フランク三浦」のように、明らかにマネというかパロディであっても、商標登録は認められるべきと考えます。
本家の方からすると面白くないと思うと思うのですが、商標登録の現在の仕組みでは、やむを得ないことと考えます。
通常、本家の商標が先に商標登録されていて、後からパロディ商標が商標出願されます。
また、本家の商標は有名になっていることが多いです。
そのため、パロディ商標を商標登録するかどうか特許庁が審査するときには、ざっくりと言うと、本家商標とパロディ商標が似ているかどうかを判断します。
この商標が似ているかどうかの判断を類否判断と呼びますが、類否判断は、究極的には、取引の実情などを総合的に見て、お客さんが間違えるかどうかで判断をします。
しかし、このような判断方法だけだと、事前に似ているかどうかの検討をつけるのが難しかったり、判断に統一性がなくなる等の難点もあります。
そのため、実務的には、商標の外観(見ため)と観念(意味合い)と称呼(呼び方)をそれぞれ比較して、これらも材料に類否判断が行われます。
特に、特許庁の商標審査では、近年、毎年1年間で20万件近くもの商標出願があることもあり、迅速に審査を進める必要があるので、取引の実情などを含めて総合的に類否判断というよりは、商標の外観・観念・称呼で形式的に類否判断しているように見受けられます。
パロディ商標というのは、そもそも、本家の商標に寄せています。そのため、商標の外観・観念・称呼という形式的な類否判断では、パロディ商標は本家商標と類似のため商標登録しないという判断になりがちです。
しかし、パロディ商品を本家商品と間違えるわけがないという事情、つまり、取引の実情を上手く説明できれば、上述の究極的な類否判断から、パロディ商標と本家商標とは非類似だから、商標登録すべきとの判断を導き出すことができるのです。実際、パロディ商品と本家商品とでは価格が全然違っていたり、売り場が全然違っていたりすることがあるので、お客さんが間違えっこない事情があることが多いと考えられます。
「ザニャンコフェイス」の場合も、お客さんが、まさか「ノースフェイス」の商品と間違えるとは思えないので、商標登録されるべきものと考えられます。
まとめ
パロデイ商標が商標登録できるかどうかは、ケースバイケース。
ただし、パロディ商標について、商標登録を認めるべきという趣旨の裁判例も出てきており、以前よりも商標登録できる可能性が高まってきている傾向がある。
(逆に、本家としては、パロディ商標を商標登録されてしまうリスクが高まる。)
パロディ商標の商標登録の決め手は、お客さんが間違えるかどうか。